リード引渡しライン(MQL:Marketing Qualified Lead)とは、マーケティングが「この見込み客は営業に渡してよい」と判断する基準のことです。多くのB2B企業では、資料請求や問い合わせといったWebフォームの送信がこの境界線になっています。ViVOは、この境界線を「Webフォームの送信」から一段手前の「サイト内検索で、自分の言葉で探していると分かった瞬間」へ引き直すことで、営業に渡せる案件の母数を増やせると考えています。

私は20年、法人営業をしてきました。2012年からはSalesforceで、最先端のテクノロジーを価値で売るソリューションセリングを続けてきました。その経験で言い切れることが一つあります。営業の仕事でいちばん大変なのは、案件を作ること(パイプライン・ジェネレーション)です。そして、そこがうまく回れば、売上も利益も必ず上がります。

2026年9月、製造業M社のマーケティング責任者の方とお話ししました。その方の今期のミッションは「案件数を2倍にする」ことでした。フォーム通過からクッキー取得はできているけどスコアリングは運用できていない。これは多くのMAを導入した中小企業で起きている現象です。最初のリリースで仮に設定したスコアリングロジックの改善運用など、誰もやったことがない中で運用を回すのはそれは現実的ではないです。

私は「営業に渡すと判断する基準を、もっと手前にずらしませんか」と提案しました。返ってきた言葉は「初めて聞きました」でした。

この記事は、その提案の根拠を書いたものです。なぜ境界線は今の場所にあるのか。誰が引いたのか。なぜ今、引き直せるのか。

この記事の要点(要約)

  1. B2BのWebで「問い合わせ」を大きく増やすのは難しい:フォーム送信は訪問者のごく一部。ここを広げる施策は、工数に対して成果が出にくい
  2. 「資料請求で営業に渡す」境界線は、2002年前後のマーケティング技術の都合で引かれた:原理ではなく、たかだか20数年の慣習
  3. 境界線を作った本家が、自ら見直している:Forresterは2021年に枠組みを改訂し、2025年にはMQLから購買グループへの移行を明言した
  4. 引き直せるようになった理由は、意図が言葉のまま残るようになったから:サイト内検索の検索語は、お客様が自分の言葉で書いた「欲しいもの」
  5. 境界線を一段手前に動かすと、営業に渡す母数が増える:ある導入企業では、問い合わせ1件の裏で、検索して帰ったケースが約12回あった
この記事の視点

マーケティングと営業のすれ違いは、どちらかの努力不足ではなく、境界線がいちばん細いところに引かれていたことから生まれていた可能性がある。境界線は原理ではなく慣習なので、引き直せる。

01

「案件数を2倍に」を、Webフォームの改善で達成できるか

机の上の解析レポートと問い合わせ用紙の束、その横で空のままの検索窓が映るノートPC

マーケティング責任者が置かれている状況:M社に限らず、私たちがご一緒するB2B企業のマーケティングの方は、ほぼ同じ構造の中にいます。Webサイトへの訪問に対して、問い合わせ・資料請求・見積依頼につながる割合は、とても低い。トラフィックを増やしても、フォームの手前で大半が帰ってしまいます。

なぜフォームの改善では足りないか:どれだけニーズが強くても、問い合わせという行為そのものが、B2Bでは心理的なハードルが高いからです。「メールアドレスだけで結構です」と入力項目を減らしても、件数が10倍になることはありません。M社のマーケティング責任者の方との会話で、私はそうお伝えしました。

ViVOが見た数字:Y社では、サイト内検索を使ったあとに問い合わせに至る割合は7.6%でした。裏返すと、検索して探し物をしたのに問い合わせに至らなかったケースが、問い合わせ1件につき約12回あります。しかもサイト内検索まで進む人は、私たちの経験では訪問者の多くて1割、5%なら良い方です。出口はもともと細く、そこをさらに広げるのは難しい。これがB2BのWebの実態です。

営業の側から見ると、こう映ります。「もっとたくさんの案件をパスしてほしいのに、全然来ない」。マーケティングの側から見ると、「何をやってもCVRが大きく改善できない」。どちらも正しく、どちらの努力も足りていないわけではありません。

02

誰が境界線を引いたのか:生命保険の対面営業から、2002年のMQLまで

ファネルの考え方は、B2Cのマス広告から来たと思われがちです。私もそう思っていました。調べてみると、違いました。

  • 1898年、米国の広告・営業の実務家 E. St. Elmo Lewis が、AIDA(注意・関心・欲求・行動)の原型を示したとされています。題材は米国の生命保険市場の顧客研究で、目的は対面営業(personal selling)の仕組みを説明することでした。[1]
  • 1924年、William Townsend の『Bond Salesmanship』(債券の営業術)が、初めてAIDAにファネルの形を重ねました。[2]
  • その後、20世紀を通じてファネルはテレビ・ラジオ・印刷のマス広告に取り込まれ、「1人の消費者が認知から購入へ一直線に進む」モデルとして教科書に載りました。
  • 2002年、米国の調査会社 SiriusDecisions が Demand Waterfall を発表し、MQL(Marketing Qualified Lead)と SQL(Sales Qualified Lead)という言葉を作りました。[3] 同じ時期に、マーケティングオートメーションが行動の記録を可能にし、「行動を点数にして、閾値を超えたら営業に渡す」運用が定着しました。初期のMQLの定義は、フォーム送信や資料ダウンロードといった分かりやすい行動の閾値でした。

つまり、ファネルは高額・高関与の対面営業で生まれ、いったんマス広告向けに単純化され、その単純化された形のままB2Bに戻ってきました。そして「資料請求で営業に渡す」という境界線は、2002年前後の技術の都合で引かれた、たかだか20数年の慣習です。

私たちがお客様の現場で見るのも同じ形です。M社とは別のお客様でも、サイト内検索の検索語(お客様の関心を示す一次情報)がマーケティングオートメーションと紐付いておらず、リードの育成に使えていないことが、課題として挙がっていました。境界線の手前にある情報が、境界線の判断に使われていなかったのです。

03

答え:誰も決めていない。技術の制約がそう決めた

「誰が境界線を引いたのか」の答えは、誰も決めていない、です。3つの制約が、境界線をそこに置かせました。

  1. 掴めたのはページ遷移だけだった。どのページを見たかは分かっても、本気度は推測するしかない
  2. だからスコアリングが要った。ページ閲覧に点数を付けて合計する。設計も運用も重く、外れも多い
  3. 結局、誰にでも分かる一点に境界線を引いた。それがフォーム送信でした

それだけの理由です。境界線がいちばん細いところに引かれたのは、当時はそこしか「本気度を確かめられる場所」がなかったからです。

境界線を作った本家も、自ら見直しています。SiriusDecisionsを買収したForresterは、2021年に枠組みを B2B Revenue Waterfall へ改訂し、個人のリードではなく購買グループ(buying group)を単位にしました。背景には、B2Bの購買の80%超が、3人以上・複数の部門が関与する複雑な意思決定になっている、という調査があります。[4] 2025年4月には、同社のアナリストが「マーケティングのリーダーは何十年もの間、MQLを土台に計画・予算・指標・成功を組み立ててきた」と振り返ったうえで、購買グループへの移行を明言しました。[5]

境界線を引き直すことは、私たちの勝手な主張ではなく、枠組みを作った側が先導している流れです。

04

なぜ今、引き直せるのか:意図が、言葉のまま残るようになった

検索窓に入力している途中のノートPCと、その横で通知が灯ったスマートフォン

最初の制約が外れたからです。サイト内検索の検索語は、お客様が自分の言葉で書いた「欲しいもの」です。

ページ閲覧と検索語の違い:ページ閲覧は、こちらが用意した棚をお客様が歩いた記録で、語彙はサイト側のものです。検索語は、お客様が自分の言葉で書いたもので、語彙はお客様側のものです。型番、スペック、競合製品の名前、使いたい期間は、ページの名前には現れません。「オシロスコープの製品ページを見た」と「オシロスコープ 1GHz 短期レンタル」では、営業が電話でできる話が変わります。

Y社の記録:Y社から提供いただいたデータでは、サイト内検索を使った訪問者は、使わなかった訪問者に比べて、1訪問あたりの閲覧ページ数が6.98ページ対1.15ページ、滞在時間が11分27秒対2分48秒でした。検索窓は、興味を持って探しているお客様を自己申告で選び出すフィルターとして働いています。

検索が閲覧や滞在を増やした、という因果を言い切るものではありません。

技術的には軽い:検索語は検索結果ページのURLに入っています。マーケティングオートメーションのトラッキングタグが検索結果ページで記録を取れば、「誰が、いつ、何を検索したか」が、匿名の訪問者が後日フォームを送った瞬間に遡って本人に紐付きます。検索エンジンとの連携開発は要りません。M社では2026年9月30日に、検索結果ページへのタグ追加と、Salesforce側で検索履歴を受け取る仕組みの構築が合意されました。

ここで一つ、正確に書いておきます。サイト内検索も、検索語がURLに残ることも、特定の製品の発明ではありません。引き直せるようになった理由は、意図が構造化されたデータとして取り出せるようになったことにあります。それをCRMやマーケティングオートメーションにつなぎ、営業が動ける形にするのがViVOの役割です。

05

境界線を一段手前に動かすと、何が起きるか

会議室で、マーケティングと営業の担当者が同じ大型画面の検索窓とグラフを見ている後ろ姿

渡す母数が増える:Webフォームを待たず、「探していると分かった瞬間」を新しいリード引渡しラインにします。Y社の数字で言えば、問い合わせ1件の裏にある約12回の検索が、営業が連絡できる候補になります。

営業の動き方が変わる:私がY社の担当の方にお伝えした例です。CRMで優先度の低いCランクのお客様が、特定の機器名を検索していた。それが分かれば、担当営業に通知を飛ばし、Bランクへ引き上げる判断ができます。マーケティングオートメーション上で、特定の検索語にスコアを加点することもできます。

連絡の仕方は変えない:ここは注意が必要です。「検索されていたので」と履歴に触れる連絡は、お客様を遠ざけます。検索語は「何の話をするか」を選ぶためだけに使い、連絡は「貴社の状況を考えると、今ちょうど〇〇にご関心がおありではと思いまして」で十分です。

マーケティングと営業のすれ違いが解ける:営業の「案件が来ない」とマーケティングの「CVRが上がらない」は、同じ一本の境界線から生まれていました。境界線を手前に動かすと、マーケティングは「渡した案件数」で評価され、営業は「興味の中身」付きで案件を受け取ります。

正直に書くと、M社の取り組みは2026年9月30日に始まったばかりで、案件数がどう変わったかはこれから計測します。「案件数を2倍に」というご要望に、答えが出たわけではありません。結果は、数字が出た時点で続報として書きます。

これは、B2Bのマーケティングとセールス、そして先端テクノロジーに向き合い続けた私たちが、たどり着いたひとつの結論です。

境界線は原理ではなく、慣習でした。意図が言葉のまま残るようになった今、営業への境界線は、引き直せます。

貴社の境界線がどこに引かれているかを確かめる、無料の「検索パイプライン診断」(約2週間)は、お問い合わせからお申し込みください。

Q&A

境界線の引き直しについて、よく聞かれること

Q. MQLをやめる、ということですか?
いいえ。基準を一段手前に動かす、ということです。フォーム送信は引き続き最も確度の高いシグナルです。その手前に「自分の言葉で探している」というシグナルを加え、営業に渡す母数を増やします。
Q. マーケティングオートメーションのページ閲覧スコアと、何が違いますか?
置き換えではなく、足すものです。ページ閲覧の記録に、いちばん本音が出るページ(検索結果ページ)を1枚足す、と考えてください。ViVOがM社で確認した落とし穴が一つあります。検索結果ページが画面を切り替えずに再検索する作りだと、タグは最初の読み込み時にしか動かず、2回目以降の検索が記録に残りません。検索のたびに記録を送る設定が要ります。
Q. 特定の検索製品を入れていないとできませんか?
検索結果ページが貴社のドメイン配下にあり、検索語がURLに入る検索であれば、記録自体は始められます。ViVOの無料「検索パイプライン診断」は、検索製品の導入有無にかかわらずお受けしています。ただし、検索の精度が足りないと「興味は分かるが答えが分からない」状態になります。検索精度と案件数の関係は、次の記事で書きます。